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人のお役に立ちなさい

 この世にオギャーと産声を発して生まれることは、いつの時代も同じです。猿からヒトになる類人猿の古代でも同じだったと思います。経済活動には「人、もの、お金、情報」という四要素が必要だと言われますが、古代はどうだったのでしょうか。
 お金は古代にはありません。ものも衣食住の最小限度の必需品しかなかったでしょう。情報も言葉もなくヒトが見るものと聞くものしかない。確かなことは、地球上でヒトが存在していたことだけです。生まれたときには、自分の親と親が生活をしている住まいがあった。親を取り囲む社会があり、同じような顔かたちをしたヒトたちと生活をしていた。
 人間というのは「人の間」と書いて人間。人は人と共に生きることは、文字を作った古き時代から理解されていたことだと思います。そして人間として生命をこの世に授かってから、誰しも「人に害を及ぼそう」と思う人間はいないと思う。親は手塩にかけて子を育て、世の中にお役に立てる人間になってほしいと願う。幸せになってほしいと願う。駆け引きなしで親が子を育てる姿は美しいものだと思います。古代には貨幣というものがなかったので、お金持ちになってほしいと願う親はいなかったでしょう。あまりにも経済活動が活発になって「お金」のために生きる輩が多くなり、金儲けを人生の目的とする人が増えてきています。貨幣はわずか2000年前に人間が作ったものです。経済の流通機能を円滑にするための手段として作られたものです。
 人が作ったものを人生の目的とするのは寂しいとは思いませんか。
 「人のお役に立ちなさい」ということばは素晴らしい響きをもっています。「皆様のお役に立てることでしたら、やらせていただきます」「君のお役に立てることだったら何でも言ってきてくれよ」「あなたのお役に立てるよう頑張ります」何とはなしに聞きすごしている言葉ですが、重みのある言葉です。
 「役」は、「薬」と置き換えてみることもできます。「そいつのことを思って薬になってやる」ことも役に立つことです。「約」=決まりごとや約束を守ることも、役に立つことです。「訳」=分かりやすく教えて伝えることもそうですし、「躍」=相手を励まして活気づけることも役に立つことです。「ヤク」という言葉は奥が深く、やきもちを妬く、世話を焼くも「ヤク」のうちかも知れません。
 商売をしていくにも「お金」を目的としていたら、結局お金(=お客様)は逃げていくと思います。「人のお役に立ちたい」と常日頃から思って、商売をしていたらお客様(=お金)は、寄ってきます。自分以外のすべての人のお役に立つことは、とても難しく、厄介なことですが、まずは自分を育ててくださった親から始めてみてはどうでしょうか。いとも素直な気分でできることが分かります。親の次は、日頃自分のまわりにいる人の役に立ってみてください。隣に住んでいる人、会社の同僚や上司、近所の人、取引先の人に役に立つように心掛けてみてください。
 「人のお役に立つ」ことが人生そのものだと思った瞬間から、人生が開けてきます。世の中が今までとちょっと変わったなと思う人もいるでしょうし、ものすごく明るく見えてきた人もいるでしょう。少なくとも、人のお役に立っていると思うだけで、世間が、ちがって見えてくるはずです。人のいたみもよく分かるようになるのが不思議です。
 「人のお役に立つ」ことをしていると、生きていることを肌から実感できる。(1995.6管材新聞掲載)