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NJのヒルトンホテルのレストランで・・・日立金属の方々(左から一瀬氏、ジェフ、オカモト氏、福井氏、ナガオカ氏、トム、私、橋本氏、ハヤシ氏の以上9名)

  4年に1度必ず実施されるアメリカ大統領選挙。11月の第1月曜日には全国一斉に一般有権者の投票が行われ、各州で「選挙人」が選ばれる。そして全国538名の「選挙人」の最終投票によって大統領が決められるのである。各州から選出される「選挙人」の数は人口によって比例配分され、最大の選挙区はカリフォルニア州で45名、続いてニューヨーク州41名、テキサス州26名という順になる。しかし、アラスカ州など人口の少ない州でも最低3人の選挙人は保証されているという。
  「大統領選挙」は、この各州の選挙人を何人獲得できるかという競争ということになる。現行の制度(ユニット・ルール・システム)では、過半数の270名の選挙人を得るためには、人口の多い順に11州を制すればよく、残りの他の州で大敗を喫して得票率50%をはるかに割っても大統領に当選できるという矛盾も生じてくる。実際に、1980年の選挙ではレーガンの国民支持率は50.75%であったが、選挙人の獲得数はレーガンが489名、カーターが49名であった。
  帰りの自動車では今にも眠りそうであった。助手席に座る義務として起きていなければならない。ひとつは、ハヤシ氏が好感のもてるタイプであること、そしてもうひとつは、睡魔を押さえるため、私はしゃべることにした。

  はじめは堅い話からであった。アメリカでは商品によって異なるが、数%の取引税(Sales Tax)というものがある。そのためかどうか、卸商(一次店)の次には小売店(二次店)はほとんどなく、卸商が小口販売をもしているという。コンピュータ管理が進んだのもセールスタックスの計算がうるさいからかもしれない。メーカーと卸商の間には、REPという在庫を持たない売り込みのみの代理店があるが、そこのセールスマンはすべて歩合だそうだ。最近の動きとすれば、REPの中には、資金を貯え、在庫を持つ傾向にあるという。また、REPの特徴としては、同等商品における他社メーカーの取り扱いはしないことになっている。
  ハヤシ氏は私よりかなりお兄さんであった。早大の商学部を卒業され、現在は娘2人の良きパパである。はじめは日立製作所に入社されたが、どういうわけか日立金属に回され、ついでにアメリカまで。おかげで学校時代から好きだった英語は、なんとかこなせるようになったと謙遜される。英語での文章の組み立てと日本語でのそれとはおのずから異なり、「・・・する。なぜなら・・・だから」という考え方が英語の発想のような気がすると言われる。日本流のとくに大阪における「もし、どちらまで」「ちょっとそこまで」「ああ、さよか」というやりとりは、英語を話す国では考えられないことである。
  海外での生活は思ったより華やかではなく、とくに子供の教育や将来のことを考えると、これで良かったのかと憂うつになる時があるという。最近の若い社員の中で海外生活をあまり好まない風潮が出てきているのが悩みのタネであるとも言われる。もう午後10時前であった。何から何まですっかりハヤシ氏にお世話になってしまった。思った通り充実した一日であった。